オモコレーー具現の館ーー

日本海外を問わず、優れた立体造形+アメコミを紹介していきます。

「PUTITTO ゲゲゲの鬼太郎」

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フチコシリーズで一世を風靡したキタンクラブから、鬼太郎シリーズが登場。全7種+シークレット1種で、今回はそのうちから4種紹介。

 

 

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まずは鬼太郎。ちょこんと腰掛けている感じが可愛い。どうしても欲しかったので、当たった時は嬉しかった。

子供っぽい肉付きやら特徴的な口元やら、小さいけれど作り込みの細かい逸品。

 

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一反木綿。うねりのところで固定できるようになっている。シンプルなようでいて、実は先っぽが青かったりと、微妙なところでの彩色のこだわりが。

 

 

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サラリーマン山田。こいつが最初に当たって、どうしようかと思った(笑)。ラインナップの中では間違いなくハズレ……と思いきや、実はかなり細かい造形。逆さまポーズもらしくて面白い。

 

 

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シークレット。鬼太郎誕生秘話より、赤子の鬼太郎を連れて歩く目玉親父。さっきのサラリーマン山田の後にこいつが出てきた時は、運が良いのか悪いのかわからなかった。髪のなびきとか、すごく良く出来ている一方、シークレットとしては……価値はそこまでかな。普通の鬼太郎が出てきた時の方が嬉しかったし。

 

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とゆーことで、コップの鬼太郎でした。新しい仲間が加わったら、どんどん追記していこう。

 

アメイジング スパイダーマン

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 ハズブロアメイジング スパイダーマンを紹介。

 

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かなり、ほっそりしたプロポーション。顔の造形はバッチリだけど、体つきが華奢にすぎるかな。

 

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若干、平べったい感じにもなっている。

 

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可動自体はかなり優秀。クリックもあって、そう簡単にはへたらない。

 

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ディテールも良い感じ。独特のウェブ模様は、細かいところまできちんと仕上げられている。

 

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遊べば遊ぶほど良く見えてくる。お気に入りのスパイダーマン

リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン

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ソロモンの秘宝、吸血鬼ドラキュラ、海底二万マイル、ジキル博士とハイド氏、モルグ街の殺人、シャーロックホームズの冒険、白鯨、透明人間……

少年時代、夢中になった数々の名作文学の登場人物たちが、ついに一堂に会した! この『リーグ…』は、いわば世界の名作文学の一代クロスオーバー。ソロモンの秘宝からは、アラン・クォーターメインが登場し、海底二万マイルからはネモ船長。モルグ街で殺人を繰り広げるハイド氏を捉えに行く時には、探偵オーギュスト・デュパンが登場するなど、登場人物のほとんど全てに「原典」がある。

 

凄いのは、ほんとにぽっと出のキャラクター、たとえば透明人間事件の被害者ポリアンナとかにまで、ちゃんと原作があって、それぞれのキャラクターが恐ろしく綿密に組み合わされている点。『ウォッチメン』でもそうだったけど、アラン・ムーアの物語構成力は異常です。

 

文学に登場するキャラクターでクロスオーバーするっていう発想自体が、まずコロンブスの卵なわけで、俺みたいに小学校からそーゆー本に親しんできた輩にとっちゃぁ、もう最高の世界でした。知ってるキャラクターが出てきた時の、親友に再会したみたいな喜び(笑)もちろん知らないキャラクターも数多くいて、興味を持ってこれから読んでみたいと思った魅力的な登場人物も多かった。何せ物語に登場するほぼ全員が、それぞれにオリジナルの物語を持っていて、しかもそっちでは主役級。そんな彼らを次々に登場させるという贅沢さ。たとえば『海底二万マイル』のネモ船長の下で、『白鯨』のイシュメイルが働いているとか。一人一人のオリジンを知ってから読むと、どこでどのキャラクターを使うのかっていう設定的面白さもあって、どんどん引き込まれてしまう。

 

とまぁ、こんな風に書くと、少年の心いっぱい! 胸躍る大冒険譚!! ってな感じがします。もちろん間違っちゃいない。間違っちゃいないけど、なにせライターはアラン・ムーア。この人に任せた時点で、一筋縄ではいかないことは目に見えている。

 

主要キャラクターに、特にそれが顕著。世界を脅かす脅威に立ち向かうため結成された「リーグ オブ エクストラ オーディナリー ジェントルメン」だけど、誰一人まともな奴がいない。主人公格のクォーターメインは、中盤まで阿片中毒の初老。ネモ船長はムーアの体現かと思われるようなアナーキストぶりを発揮するところがあり、紅一点のミナ・ハーカーにも後ろ暗い秘密がある。透明人間は変態だし、ジキル博士は言わずもがな……そんな輩が一塊になって、女王陛下万歳! 大英帝国を救え! って、上手く行くはずがない。衝突、反目、不信、裏切りは当たり前。ただ、そうした局面を経て、次第にリーグとして固まり出す部分には、強いカタルシスがあった。

 

ストーリー、というよりテーマ的な部分でもムーアらしさが全開。VOLUME2になるとよく分かるけど、このヒトほんとに政府を信用してねぇ(笑)あと、ゴアなシーンが実はけっこう容赦なくて、グロいだけじゃなく、精神的にゾッとさせる描写も多い。この辺は、『フロム ヘル』にも相通ずるものがある。

 

時代が時代なので、スチームパンク的な魅力は大爆発! 筆頭はノーチラス号、何が最高って、このノーチラス号! ディズニー映画のそれとはまた違ったフォルムとデザインがかっこええ! こいつは、VOLUME2のトライポッドとの戦闘で大活躍します。その他ケーバーライトなど様々なガジェットや、ドーバーの絶景など、パンク好きには堪らないものがある。


ストーリー、ビジュアルともに他の追随を許さないクオリティ。にもかかわらず、最高の魅力は深淵まで綿密に構築された世界観にある。本作はコミック以外にも短編小説や設定集などが付録としてついてきて、よりこの世界の拡がりを味わわせてくれる。ドリアン・グレイの塗り絵とか楽しすぎてヤバい。こういう子ネタ集でグッと来るなら、本作はぜひ読むべき。

 

少年時代に憧れた物語の数々を、アラン・ムーアは1つの大冒険譚に収斂して世に生み出した。それは勧善懲悪的な、少年少女に真っ当な道を示すものなんぞではなく、どこまでもイヤミ、どこまでも背徳的な、だがそれが最高に楽しい連続活劇となっている。一癖も二癖もある超人たちが活躍する『リーグ オブ エクストラ オーディナリー ジェントルメン』、少年の心を捨てきれず、なのに平凡な大人にならざるを得なかった少年少女たちに送られた、空前絶後の空想冒険絵巻!

 

 

ーーさてさて読者諸君よ! 我らが誇る連続活劇絵物語は、いよいよ次号、古今未曾有の天空決戦をもって大団円を迎える運びと相成った! 御自身がフランダースの駄犬などにはあらずして、鉄石心腸を備え得る男子であると思われるならば、万難を排して本誌次号をご購読されよ!

クラシック オプティマスプライム

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ロストエイジ』シリーズから、クラシック・オプティマスを紹介。

 

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G1コンボイビークルに変形するオプティマス・プライム。映画でもこの形で登場して、「あっ! なんか見覚えがある!」ってテンション上がりました。

 

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コンパクトに収まっていて、これがどう変形するか、はじめはまったくわからなかった。

 

ではでは、トランスフォーム!

 

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これは見事。相当完成度高い。

 

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車の裏表をぐるりと回転させるみたいにして、体を作る。それぞれのパーツがかっちりとはまるので実に気持ち良く、何度も変形させたくなる。

 

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変形させた上で、可動は優秀。足の作りがしっかりしていて、ポーズも見事に決まる。

 

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カッコいいよなぁ。赤と青の色使いも、G1を彷彿とさせる。

 

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顔の再現も細かくて驚かされる。個人的には口は隠れている方が良いかな。

 

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第1作目を意識したポーズ。 

 

デアデビル イエロー

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ーー親愛なるカレン。君に話したいことが、たくさんあるんだ。キミに打ち明けたかった、いろんな冒険の話とか。

若い頃は、永遠に生きられる気がしていたのにねーー

 

 

 

いやはや、デアデビルにハズレなし。『ボーン・アゲイン』『ザ マン ウィズアウト フィアー』と並んで大好きな作品の1つになりました。

スパイダーマン ブルー』でなんとも言えない味わいのスパイダーマンの物語を描いたコンビ、ジェフ・ローブティム・セイルが、今度はデアデビルの物語を描き出した。『イエロー』は、デアデビルの一番初めのコスチュームの色。今デアデビルっていうと真紅のコスチュームがイメージされるけど、初登場時は黄色と赤の、ちょうど絵にあるようなコスチュームだった。

『イエロー』が副題となっているところからも分かる通り、本作はマット・マードックデアデビルになった瞬間から、秘書のカレン・ペイジ登場を経て、真紅のコスチュームを纏う寸前までの物語を辿る。その上で、『スパイダーマン ブルー』と共通したテーマ、「帰らない過去。帰らない人への憧憬と恋慕」を、今度もまた見事に描き抜いて見せた。『ブルー』でグウェンの立ち位置になるのが、『イエロー』ではカレン。

 

デアデビルフランク・ミラーによるハードかつシリアス、重厚な人間ドラマが高く評価されていて、その極致が『ボーン・アゲイン』。一方、ジェフ・ローブティム・セイルはまるで水彩画のような筆致を以て、デアデビルの物語をロマンティック・コメディ調に仕立て上げてしまった。これが、素晴らしくハマっている。

 

流れとしては『スパイダーマン ブルー』と同じで、既に帰らぬ人となったカレンに、デアデビルことマット・マードックが過去の思い出を物語る構図を取っている。ただ『ブルー』と違うのは、もちろんシリアスなシーンもあるんだけど(特に序盤)、全体的に絵柄含めてとにかくほのぼのしてて、とても柔らかい感じがすること。主人公たちだけでなく取り巻く警官や群衆など、ローブとティムの描く世界は全体的にとても長閑で優しい。『デアデビル イエロー』はロマンティック・コメディ路線を目指したためか特にそれがイメージされている。まずそれが癒されるし、終盤になっていくにつれ、絵の具に色が混じり合う感じで哀愁が漂い始める。

 

『ブルー』もそう。このカラーシリーズで描かれているのは、「愛する人との別れの先に見えたもの」。ピーターもマットも、心から愛する人との悲しい別離を経験している。その経験から、彼らが何を得たかーーそれがこのシリーズのとても重要なテーマ。『ブルー』評では、決して帰らない、だからこそ愛しくて仕方がない過去ということについて書いた。ノスタルジアーー過去に取り憑かれた人々の悲しみだけで終わらせないのが、このシリーズ。

 

別れこそ絶望的で悲惨なものだったかもしれない。けれどそのために、出逢ってからそれまでの日々をーーもう帰ってこない大切な時間の全てを否定することなんてできない。この人と出逢えたこと、それだけでも価値があるーー。そんな思いを胸に、デアデビルもスパイディも、愛する人のいない今日を生きてゆく。

 

ジェフとティムが描き出したコミカルで、ロマンティックで、少しだけ哀しい世界。読み始めたが止まらない。コメディリリーフに笑み、アクションに魅せられ、甘酸っぱいロマンスにじれったさを覚えーー次第にそれらが戻らない過去の思い出であると気づかされる。そして、その先に見えてくるものがわかった時に感じる、じんと涙腺を刺激する余韻……もう最高です。ほんとに翻訳されて良かった。

 

完全無欠じゃない。だからこそ同じで目線で、その勇姿にエールを送りたくなる。『スパイダーマン ブルー』と並んで名コンビが世に送り出した至高の一作。ぜひぜひ、ご一読を。

 

 

ーーキミに『恐れを知らぬ男』と呼ばれたボクは、自分の最大の恐怖は…

キミを失うことだと気づき始めていたーー

マーベルマスターワークス:アメージング スパイダーマン

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カメレオン・バルチャー・リザード・ドクターオクトパス・エレクトロ……魅力的なヴィランが数多く登場するスパイダーマンのコミック。1962年から始まり現代まで続くこの長大なシリーズ、もちろん全部読めるなら読みたい! でも、翻訳版には限りがある。ならば最低でも、スパイダーマンを含めた様々なキャラクターのオリジンだけでも読みたい……そんな日本のファンの希望に応えてくれたのか何なのか、ついに登場したのがこのマスターワークス。なんと、スパイダーマンとその代表的なヴィランーーカメレオン・バルチャー・ドクターオクトパス・サンドマンリザード・エレクトロなどなどのキャラクターの初登場回を完全収録してくれている。ファン垂涎とはこのこと。心から待ち焦がれた一冊が手元に来た。

 

こういう本が熱望されるということは、やはりシリーズにおけるキャラクターのオリジンというのは、それだけで価値があるものなのだろう。特にアメコミという、リアルタイムで追っかけることが難しい媒体、そして現代という、ネットを通じてキャラクターの設定だけがいち早くわかるような時代においては、あのキャラクターはいかにして登場したのか? と問いたくなる気持ちが、いっそう強いに違いない。この一冊は、そんな要望にバッチリ応えてくれる。

 

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スパイディのオリジンは、過去に『ベスト・オブ・スパイダーマン』にも収録されていた。ただ、翻訳がかなり変わっている。各話の前には必ずコミックスの表紙も載っているという嬉しいファンサービス。しかも読者へのメッセージページなども掲載してくれる。これは希少。

 

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ヴィランが登場するストーリーも、どれも面白くて秀逸なものばかり。次から次へと現れるヴィランに対して、スパイディもあの手この手で立ち向かう。元々ピーターが科学好きの優等生なこともあって、強敵に対してスーパーパワーだけじゃなく、科学の知識を駆使して戦うところにもストーリーの工夫を感じる。特にリザード戦やバルチャー初戦では、科学知識を活かして事件を解決していた。

 

また、本書の解説にもあった、「この時期のコミックは"読み物"であった」という点も非常に興味深い。セリフがないコマが1つもなく、誰かしらが実際ないしは心中でずーっと喋っている。ビジュアルによる説得とセリフによる説得のバランスを考えると面白い。

 

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戦闘場面と同じくらいに読み応えがあるのが、ピーター・パーカーをめぐる人間ドラマ。この頃は、ベティ・プラントと良い仲になりそうだったのね。次第に惹かれあって行く2人の姿が微笑ましい一方、この収録話の最後の方になって、何やら暗い影が立ち込めてくると、どうなることやらと心配になって来もする。この2人のロマンスもそうだし、他のキャラクターとのドラマを見ていてもそうだけど、スパイディが始まった当初は、今よりもずっと牧歌的だったようだ。フラッシュもジェイムソンも、憎めないところがあって、どこか柔らかい。スパイディに否定的立場な警察や街の人も、心の底ではスパイディを信じている節があったりと、どこか優しさがある。話の決着も同様で、ベティと良い仲になって終わったり、スパイディ疑惑をフラッシュに着せてみたり、F4のスー姉さんにハートを送ってみたりと、何かこう、呑気とでも言えばいいのか、そんな空気が妙に心地良い。ブラン・ニュー・デイの頃……いやいや、これより少し後、ステイシー警部殉職の頃と比べてみると全然違う。『デアデビル イエロー』で、「あの頃のヴィランは絶対に人殺しなんてしなかった」っていうセリフがあって、ちょうど本書掲載のストーリーの時期と重なるのかな。この頃のスパイディには、ベン叔父さんを除いて、"喪失"に直面することがなかった。逆説的に言えば、やっぱりグウェンを"失う'というあの一連の物語は、スパイダーマンのシリーズにおいて最大の転換点だったんだろうかという気がしてくる。

 

 我らが親愛なる隣人・スパイダーマン初期のストーリーを掲載した本書。本書によって、映画で観たあのキャラクターのオリジンがわかった! という嬉しい体験にもなるはず。今回収録されているストーリーを読むだけでも、作り手がスパイダーマンに託していたものーー完璧ではなく、完全でもなく、運命と力に振り回されながらも自分にできることを必死こいて頑張る"等身大のヒーロー"の在り方が見えてくる。

 

人間関係に悩み、恋に悩み、ヴィランの脅威に悩み、自分の生き方に悩むピーターの姿には、エールを送らざるを得ない。各話の終わり頃になって、「今回こそはハッピーな感じで終わってくれよ!」と願うシリーズなんてスパイダーマンくらい。でも、そこが良い。実在する存在としてピーターを応援したくなるくらい、彼に共感し、彼を身近に感じられる。それこそが、"your friendly neighborhood"たる所以。彼のみが持ち得る、独特の魅力なのだろう。

 

 

ところでこのマスターワークス、これで終わりじゃないよね?? グリーンゴブリン・ライノ・クレイブン・スコーピオン・ヴェノム・カーネイジ……まだまだオリジンが読みたいウィランはたくさん! この先、マスターワークス2、3とどんどん続いていくんでしょ? 映画の世界でも、やっとMCUに入ることができたスパイディ、まだまだ見逃せません!!

 

『タンタン ソビエトへ』

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1929年に「プチ20世紀」に掲載された、タンタンの記念すべき第1作目。ルポライターのタンタンが、GPUチェキストによる恐怖政治大蔓延中のソビエトへ取材に出かけ、冒険を繰り広げる。

 

「タンタンの冒険」シリーズの記念すべき第1作目にして、シリーズ中唯一、カラー化されなかった本作『ソビエトへ』。カラー化されなかったのも、長い間絶版扱いだったのも、後述する作者エルジェの意向によるもの。シリーズものの宿命か、後年の固定化されたキャラクターとしての「タンタン」とは、当然ながら色々と異なっている点が多く、『謎のユニコーン号』や『ななつの水晶球』などを先に読んでから本作を読むと、ギャップに戸惑うことがあるかも。ただ一方、カラー版として描き直されなかった唯一の作品として、他とは違う本作だけの魅力があるのは確か。

 

まずこの『ソビエトへ』、とにかくテンポがはやいはやい。ソビエトの実状を探ろうとするタンタンと、それを阻み彼を亡き者にしようと罠を仕掛けるソビエト側との攻防の連べ打ち。1つ1つのアクションやショックが、完全に決着しないうちから次の展開につながっていくので、ホントにアトラクションにでも乗っているような感覚。たった138ページが、138ページに思えないボリュームで、何回でも読み直せる楽しさを秘めている。次はこれ、次はこれと、休ませる間も無く迫ってくるGPUやコミッサールの刺客に対して、勇気と機転と悪運で切り抜けるタンタンとスノーウィ。くしゃみで壁を壊したり、独房になぜか潜水服が置いてあったり、吹っ飛ばされた先で上手いこと車に着地したりと、悪運もかなり荒唐無稽な一方、ガラクタから自動トロッコを創り出したり、飛行機のプロペラを2回も作ったりと、タンタン自身の創意や工夫が見られるシーンもあって、その辺のバランスはちょうどいい感じ。そこに加えてGPUと取っ組み合いする場面とかもある。本作のタンタンは、以降のシュッとしたスタイルからは考えられない、変に肉感があって、アクションシーンとなると筋肉質にも見える。作画自体が安定してないからか、タンタンの顔もページごとに結構違っていて、ここが面白いところ。

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タンタン自体のキャラクターも結構ちがっていて、本作では思慮深いというより無謀(笑)。かなりお調子者で、喧嘩っ早い。いつもは、スノーウィがトラブルメーカーで、それをタンタンが諌める構造なのに、本作では無謀ばっかりするタンタンを、スノーウィが諌めている形になっている。本作のタンタンは、その場その場をけっこう力ずくで切り抜ける武闘派って感じ。対してスノーウィが超お利口さんになってて、常々タンタンのすることにツッコミを入れる。どっちが保護者だと。しかも今回はスノーウィがタンタンを助かる展開がかなり多い。反面、スノーウィのピンチの時にタンタンが体を張って助ける場面もあり、シリーズを通して描かれた、ふたりの絆は一作目からバッチリ健在だった。

 

あと特筆すべきところは、作者エルジェの圧倒的表現力。言うまでもないことかも知れないけど、エルジェはほんとうに表現が上手い。今回は白黒で線も太め。後年にあるような細い線での緻密な描きこみはない。背景はほとんど白。線も少なめ。にもかかわらず、全てのものが何を表現しているか、一目でわかる。

 

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動きの表現も素晴らしい。特に、この車のスピード感。全体を少し傾けて描くことで、疾走感を出すこの表現。世界を形作る線の一本一本に全く無駄がない。これが今から90年近く前のものだなんて……もう感動するしかない。

このページ以外にも、一コマ一コマがとにかくシンプルだけども巧妙。最小の動きで最大の効果を狙っていて、全部のコマが見逃せない。これがシリーズの一作目ですよ? ほんとに凄いと思う。

 

 

特筆すべき点は、まだまだある。けどこれくらいにして、そろそろ、『ソビエトへ』を語る上で欠かすことができない問題について考えてみたい。

 

 

『タンタン ソビエトへ』は50年もの間絶版扱いだった幻の作品。というのも、作者エルジェにとっては、満足のいく出来ではなかったらしい。エルジェはソビエトの様子を、ある一冊の本を資料として描いた。その『ヴェールをはがされたモスクワ』は、共産主義批判を煽るような内容が強く、そこに書かれていることの全てが真実に基づいているわけではなかったらしい。

 

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でも実際に読んでみると、『ソビエトへ』に書かれているものはまったくのデタラメではないということも確か。特に有名なこのシーン。タンタンを銃殺しようとするソビエト兵の、ゾッとするほどに揃った動き。発砲とともに、足が揃って上を向く。このあまりに機械的な冷たさ。個が抹消されて、大きな何かに組み込まれてしまったかのような統一のされ方。この部分以外にも、国の利益のために個人を蔑ろにする場面が、『ソビエトへ』では数多く描かれる。それは現在でもまったく風化しない恐ろしさ。大きな力のため、個人が平気で犠牲にされる怖さを、『ソビエトへ』は確かに描いている。そして我らがタンタンは、そんな、「人を人とも思わない世界」に最後の最後まで「ノン!」を突きつける。

 

強い力に抗い、弱き者を助けるタンタンの姿は、この時から既に描かれていた。圧砕に苦しむ人々のために機転をきかせ、時には真っ向から立ち向かった。それこそ、タンタンというキャラクターが普遍的に持っている最大の魅力であり、世界中から愛されて止まない最大の理由なのだろう。そして、それは『ソビエトへ』の時点で、既に確固たるものとして確立されていた。

 

物語終盤、タンタンはソビエトに背を向け、故郷のブリュッセルに帰る。"ゆきてかえりしものがたり"の、"帰りし"の部分がちゃんと描かれているのもポイント高い。汽車が次第に故郷に近づくにつれ、ホッとすると同時に、ソビエトへの大冒険が終わりつつあるという感慨がこみ上げてくる。何度も死線を潜り抜けた、その偉大なる冒険から彼は帰ってきた。駅につめかけて、帰還を歓迎する人々。もっとも緻密に描きこまれた最後の一コマが示す大団円。けれどもタンタンとスノーウィの旅は終わらない。故郷に帰ったタンタンは、再びまたブリュッセルを後にして、様々な冒険へと旅立つことになる。

 

 

やや偏っていたとはいえ、全体主義が確かに持つ恐怖を描き出していた『ソビエトへ』。我らがタンタンの冒険録はこれを第一作目に掲げる。強気に立ち向かい、弱気を挫く。どんな困難に陥っても、希望を捨てずに挑戦し続ける永遠のヒーロー……すべては、ここから始まった。