デアデビル ザ マン ウィズアウト フィアー
ーーデアデビル。その名が嫌いだった。相手の喉に突き返してやりたかった。
今では、それが誇らしい。ーー
以前は"呪い"でしかなかった何かが、成長とともに自身のアイデンティティになるという展開が、個人的にはグッと来る。
恐れを知らぬ男、盲目のクライムファイター・デアデビルのオリジンを、アメコミ界最大の影響力を持つフランク・ミラーが描き出す。ミラーのデアデビル作品といえば、空前絶後の名作『ボーンアゲイン』があるけれど、本作も渋さと外連味に引けは取らない。
オリジンということで、主人公マット・マードックが視力と引き換えにレーダーセンスを手に入れた少年時代から、デアデビルとしてデビューするまでを描く。あの真紅のコスチュームは最後の最後まで登場せず、写真にあるような、とてもコスチュームとは呼べないような黒い服で自警活動。これが何とも言えずリアル。
決して派手にはならない。なのにこのオリジン、ほんとに面白い。人物描写がとても丁寧で、開始早々このマット・マードックというキャラクターがほっとけなくなる。どこにでもいる少年のようで、こいつ本当に"向こう見ず"。衝動で動いて失敗もちらほら。師匠にはそれで見限られてしまう。
それでもたくさんの人との出会いを経て、少しずつ大人に、そしてヒーローになっていく。後半の展開がとにかくアガる。鍛えに鍛えたレーダーセンス、それをフルに使って悪人を追いかける。一人の少女を守るため、あらゆる手を使って暴れに暴れるマット。その姿にすでに、"デアデビル"の影を感じることができる。
全体を通して外連味があって、ここぞというところで気持ちをグッと引き上げる。その極致がクライマックス。いよいよマットがデアデビルとして"再誕"するシークエンス、あれは泣けた。不遇にまみれた忘れられない少年時代、逃げ出したいと思っていたあの時間と場所に心が帰ったその瞬間、すべてが変わり始めるーー事前にマットの人生をしっかり描いているから、彼がまた歩き出すそのエンディングに、もう何とも言えない清々しさを感じることができる。
デアデビルという、良くも悪くも地味な、人間臭いヒーローだからこそ描ける物語。『ウォッチメン』を生み出したアラン・ムーアはこんなこと言ってたらしい。
ヒーローってのはスーパーパワーがあるとか、コスチュームを着てるってことじゃない。
自分の意思でもって世界を良くしようと戦う人々のことを言うんだ。
フランク・ミラーも本作でこのように言う。
自分にできることを精一杯やった後、彼はヒーローと呼ばれる。
最高のライター2人が共通して描くヒーローの姿、信念のためボロボロになっても戦い続ける"恐れを知らぬ男"、デアデビル。いかにして彼は生まれたのか。心にジンと来るドラマに喝采。『ボーンアゲイン』と合わせて、男泣き必須の傑作!