オモコレーー具現の館ーー

日本海外を問わず、優れた立体造形+アメコミを紹介していきます。

デアデビル イエロー

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ーー親愛なるカレン。君に話したいことが、たくさんあるんだ。キミに打ち明けたかった、いろんな冒険の話とか。

若い頃は、永遠に生きられる気がしていたのにねーー

 

 

 

いやはや、デアデビルにハズレなし。『ボーン・アゲイン』『ザ マン ウィズアウト フィアー』と並んで大好きな作品の1つになりました。

スパイダーマン ブルー』でなんとも言えない味わいのスパイダーマンの物語を描いたコンビ、ジェフ・ローブティム・セイルが、今度はデアデビルの物語を描き出した。『イエロー』は、デアデビルの一番初めのコスチュームの色。今デアデビルっていうと真紅のコスチュームがイメージされるけど、初登場時は黄色と赤の、ちょうど絵にあるようなコスチュームだった。

『イエロー』が副題となっているところからも分かる通り、本作はマット・マードックデアデビルになった瞬間から、秘書のカレン・ペイジ登場を経て、真紅のコスチュームを纏う寸前までの物語を辿る。その上で、『スパイダーマン ブルー』と共通したテーマ、「帰らない過去。帰らない人への憧憬と恋慕」を、今度もまた見事に描き抜いて見せた。『ブルー』でグウェンの立ち位置になるのが、『イエロー』ではカレン。

 

デアデビルフランク・ミラーによるハードかつシリアス、重厚な人間ドラマが高く評価されていて、その極致が『ボーン・アゲイン』。一方、ジェフ・ローブティム・セイルはまるで水彩画のような筆致を以て、デアデビルの物語をロマンティック・コメディ調に仕立て上げてしまった。これが、素晴らしくハマっている。

 

流れとしては『スパイダーマン ブルー』と同じで、既に帰らぬ人となったカレンに、デアデビルことマット・マードックが過去の思い出を物語る構図を取っている。ただ『ブルー』と違うのは、もちろんシリアスなシーンもあるんだけど(特に序盤)、全体的に絵柄含めてとにかくほのぼのしてて、とても柔らかい感じがすること。主人公たちだけでなく取り巻く警官や群衆など、ローブとティムの描く世界は全体的にとても長閑で優しい。『デアデビル イエロー』はロマンティック・コメディ路線を目指したためか特にそれがイメージされている。まずそれが癒されるし、終盤になっていくにつれ、絵の具に色が混じり合う感じで哀愁が漂い始める。

 

『ブルー』もそう。このカラーシリーズで描かれているのは、「愛する人との別れの先に見えたもの」。ピーターもマットも、心から愛する人との悲しい別離を経験している。その経験から、彼らが何を得たかーーそれがこのシリーズのとても重要なテーマ。『ブルー』評では、決して帰らない、だからこそ愛しくて仕方がない過去ということについて書いた。ノスタルジアーー過去に取り憑かれた人々の悲しみだけで終わらせないのが、このシリーズ。

 

別れこそ絶望的で悲惨なものだったかもしれない。けれどそのために、出逢ってからそれまでの日々をーーもう帰ってこない大切な時間の全てを否定することなんてできない。この人と出逢えたこと、それだけでも価値があるーー。そんな思いを胸に、デアデビルもスパイディも、愛する人のいない今日を生きてゆく。

 

ジェフとティムが描き出したコミカルで、ロマンティックで、少しだけ哀しい世界。読み始めたが止まらない。コメディリリーフに笑み、アクションに魅せられ、甘酸っぱいロマンスにじれったさを覚えーー次第にそれらが戻らない過去の思い出であると気づかされる。そして、その先に見えてくるものがわかった時に感じる、じんと涙腺を刺激する余韻……もう最高です。ほんとに翻訳されて良かった。

 

完全無欠じゃない。だからこそ同じで目線で、その勇姿にエールを送りたくなる。『スパイダーマン ブルー』と並んで名コンビが世に送り出した至高の一作。ぜひぜひ、ご一読を。

 

 

ーーキミに『恐れを知らぬ男』と呼ばれたボクは、自分の最大の恐怖は…

キミを失うことだと気づき始めていたーー