オモコレーー具現の館ーー

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マーベルマスターワークス:アメージング スパイダーマン

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カメレオン・バルチャー・リザード・ドクターオクトパス・エレクトロ……魅力的なヴィランが数多く登場するスパイダーマンのコミック。1962年から始まり現代まで続くこの長大なシリーズ、もちろん全部読めるなら読みたい! でも、翻訳版には限りがある。ならば最低でも、スパイダーマンを含めた様々なキャラクターのオリジンだけでも読みたい……そんな日本のファンの希望に応えてくれたのか何なのか、ついに登場したのがこのマスターワークス。なんと、スパイダーマンとその代表的なヴィランーーカメレオン・バルチャー・ドクターオクトパス・サンドマンリザード・エレクトロなどなどのキャラクターの初登場回を完全収録してくれている。ファン垂涎とはこのこと。心から待ち焦がれた一冊が手元に来た。

 

こういう本が熱望されるということは、やはりシリーズにおけるキャラクターのオリジンというのは、それだけで価値があるものなのだろう。特にアメコミという、リアルタイムで追っかけることが難しい媒体、そして現代という、ネットを通じてキャラクターの設定だけがいち早くわかるような時代においては、あのキャラクターはいかにして登場したのか? と問いたくなる気持ちが、いっそう強いに違いない。この一冊は、そんな要望にバッチリ応えてくれる。

 

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スパイディのオリジンは、過去に『ベスト・オブ・スパイダーマン』にも収録されていた。ただ、翻訳がかなり変わっている。各話の前には必ずコミックスの表紙も載っているという嬉しいファンサービス。しかも読者へのメッセージページなども掲載してくれる。これは希少。

 

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ヴィランが登場するストーリーも、どれも面白くて秀逸なものばかり。次から次へと現れるヴィランに対して、スパイディもあの手この手で立ち向かう。元々ピーターが科学好きの優等生なこともあって、強敵に対してスーパーパワーだけじゃなく、科学の知識を駆使して戦うところにもストーリーの工夫を感じる。特にリザード戦やバルチャー初戦では、科学知識を活かして事件を解決していた。

 

また、本書の解説にもあった、「この時期のコミックは"読み物"であった」という点も非常に興味深い。セリフがないコマが1つもなく、誰かしらが実際ないしは心中でずーっと喋っている。ビジュアルによる説得とセリフによる説得のバランスを考えると面白い。

 

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戦闘場面と同じくらいに読み応えがあるのが、ピーター・パーカーをめぐる人間ドラマ。この頃は、ベティ・プラントと良い仲になりそうだったのね。次第に惹かれあって行く2人の姿が微笑ましい一方、この収録話の最後の方になって、何やら暗い影が立ち込めてくると、どうなることやらと心配になって来もする。この2人のロマンスもそうだし、他のキャラクターとのドラマを見ていてもそうだけど、スパイディが始まった当初は、今よりもずっと牧歌的だったようだ。フラッシュもジェイムソンも、憎めないところがあって、どこか柔らかい。スパイディに否定的立場な警察や街の人も、心の底ではスパイディを信じている節があったりと、どこか優しさがある。話の決着も同様で、ベティと良い仲になって終わったり、スパイディ疑惑をフラッシュに着せてみたり、F4のスー姉さんにハートを送ってみたりと、何かこう、呑気とでも言えばいいのか、そんな空気が妙に心地良い。ブラン・ニュー・デイの頃……いやいや、これより少し後、ステイシー警部殉職の頃と比べてみると全然違う。『デアデビル イエロー』で、「あの頃のヴィランは絶対に人殺しなんてしなかった」っていうセリフがあって、ちょうど本書掲載のストーリーの時期と重なるのかな。この頃のスパイディには、ベン叔父さんを除いて、"喪失"に直面することがなかった。逆説的に言えば、やっぱりグウェンを"失う'というあの一連の物語は、スパイダーマンのシリーズにおいて最大の転換点だったんだろうかという気がしてくる。

 

 我らが親愛なる隣人・スパイダーマン初期のストーリーを掲載した本書。本書によって、映画で観たあのキャラクターのオリジンがわかった! という嬉しい体験にもなるはず。今回収録されているストーリーを読むだけでも、作り手がスパイダーマンに託していたものーー完璧ではなく、完全でもなく、運命と力に振り回されながらも自分にできることを必死こいて頑張る"等身大のヒーロー"の在り方が見えてくる。

 

人間関係に悩み、恋に悩み、ヴィランの脅威に悩み、自分の生き方に悩むピーターの姿には、エールを送らざるを得ない。各話の終わり頃になって、「今回こそはハッピーな感じで終わってくれよ!」と願うシリーズなんてスパイダーマンくらい。でも、そこが良い。実在する存在としてピーターを応援したくなるくらい、彼に共感し、彼を身近に感じられる。それこそが、"your friendly neighborhood"たる所以。彼のみが持ち得る、独特の魅力なのだろう。

 

 

ところでこのマスターワークス、これで終わりじゃないよね?? グリーンゴブリン・ライノ・クレイブン・スコーピオン・ヴェノム・カーネイジ……まだまだオリジンが読みたいウィランはたくさん! この先、マスターワークス2、3とどんどん続いていくんでしょ? 映画の世界でも、やっとMCUに入ることができたスパイディ、まだまだ見逃せません!!