オモコレーー具現の館ーー

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リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン

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ソロモンの秘宝、吸血鬼ドラキュラ、海底二万マイル、ジキル博士とハイド氏、モルグ街の殺人、シャーロックホームズの冒険、白鯨、透明人間……

少年時代、夢中になった数々の名作文学の登場人物たちが、ついに一堂に会した! この『リーグ…』は、いわば世界の名作文学の一代クロスオーバー。ソロモンの秘宝からは、アラン・クォーターメインが登場し、海底二万マイルからはネモ船長。モルグ街で殺人を繰り広げるハイド氏を捉えに行く時には、探偵オーギュスト・デュパンが登場するなど、登場人物のほとんど全てに「原典」がある。

 

凄いのは、ほんとにぽっと出のキャラクター、たとえば透明人間事件の被害者ポリアンナとかにまで、ちゃんと原作があって、それぞれのキャラクターが恐ろしく綿密に組み合わされている点。『ウォッチメン』でもそうだったけど、アラン・ムーアの物語構成力は異常です。

 

文学に登場するキャラクターでクロスオーバーするっていう発想自体が、まずコロンブスの卵なわけで、俺みたいに小学校からそーゆー本に親しんできた輩にとっちゃぁ、もう最高の世界でした。知ってるキャラクターが出てきた時の、親友に再会したみたいな喜び(笑)もちろん知らないキャラクターも数多くいて、興味を持ってこれから読んでみたいと思った魅力的な登場人物も多かった。何せ物語に登場するほぼ全員が、それぞれにオリジナルの物語を持っていて、しかもそっちでは主役級。そんな彼らを次々に登場させるという贅沢さ。たとえば『海底二万マイル』のネモ船長の下で、『白鯨』のイシュメイルが働いているとか。一人一人のオリジンを知ってから読むと、どこでどのキャラクターを使うのかっていう設定的面白さもあって、どんどん引き込まれてしまう。

 

とまぁ、こんな風に書くと、少年の心いっぱい! 胸躍る大冒険譚!! ってな感じがします。もちろん間違っちゃいない。間違っちゃいないけど、なにせライターはアラン・ムーア。この人に任せた時点で、一筋縄ではいかないことは目に見えている。

 

主要キャラクターに、特にそれが顕著。世界を脅かす脅威に立ち向かうため結成された「リーグ オブ エクストラ オーディナリー ジェントルメン」だけど、誰一人まともな奴がいない。主人公格のクォーターメインは、中盤まで阿片中毒の初老。ネモ船長はムーアの体現かと思われるようなアナーキストぶりを発揮するところがあり、紅一点のミナ・ハーカーにも後ろ暗い秘密がある。透明人間は変態だし、ジキル博士は言わずもがな……そんな輩が一塊になって、女王陛下万歳! 大英帝国を救え! って、上手く行くはずがない。衝突、反目、不信、裏切りは当たり前。ただ、そうした局面を経て、次第にリーグとして固まり出す部分には、強いカタルシスがあった。

 

ストーリー、というよりテーマ的な部分でもムーアらしさが全開。VOLUME2になるとよく分かるけど、このヒトほんとに政府を信用してねぇ(笑)あと、ゴアなシーンが実はけっこう容赦なくて、グロいだけじゃなく、精神的にゾッとさせる描写も多い。この辺は、『フロム ヘル』にも相通ずるものがある。

 

時代が時代なので、スチームパンク的な魅力は大爆発! 筆頭はノーチラス号、何が最高って、このノーチラス号! ディズニー映画のそれとはまた違ったフォルムとデザインがかっこええ! こいつは、VOLUME2のトライポッドとの戦闘で大活躍します。その他ケーバーライトなど様々なガジェットや、ドーバーの絶景など、パンク好きには堪らないものがある。


ストーリー、ビジュアルともに他の追随を許さないクオリティ。にもかかわらず、最高の魅力は深淵まで綿密に構築された世界観にある。本作はコミック以外にも短編小説や設定集などが付録としてついてきて、よりこの世界の拡がりを味わわせてくれる。ドリアン・グレイの塗り絵とか楽しすぎてヤバい。こういう子ネタ集でグッと来るなら、本作はぜひ読むべき。

 

少年時代に憧れた物語の数々を、アラン・ムーアは1つの大冒険譚に収斂して世に生み出した。それは勧善懲悪的な、少年少女に真っ当な道を示すものなんぞではなく、どこまでもイヤミ、どこまでも背徳的な、だがそれが最高に楽しい連続活劇となっている。一癖も二癖もある超人たちが活躍する『リーグ オブ エクストラ オーディナリー ジェントルメン』、少年の心を捨てきれず、なのに平凡な大人にならざるを得なかった少年少女たちに送られた、空前絶後の空想冒険絵巻!

 

 

ーーさてさて読者諸君よ! 我らが誇る連続活劇絵物語は、いよいよ次号、古今未曾有の天空決戦をもって大団円を迎える運びと相成った! 御自身がフランダースの駄犬などにはあらずして、鉄石心腸を備え得る男子であると思われるならば、万難を排して本誌次号をご購読されよ!